小さな出版社に勤務していた私が、講師になりたいとどきどきしながら代々木のカワイに電話した日の事は、今でもはっきり覚えています。それが、今の私につながる第一歩でした。
「年齢も、音大卒の学歴も問わない。とにかくグレードを受けて」と教えられ、翌年の春に入社。早速始まった研修、子ども達とのレッスンなど、それまで趣味であった音楽が仕事になった喜びで、私は毎日夢中でした。活字でしか知らなかった湯山昭、平吉毅州といった著名な作曲家の音研会は素晴らしく、今でもその語り口を思い出すほどです。和声も楽典もカワイで学び、グレードに何度も挑戦した努力の日々もありました。
カワイは私の音楽の原点です。今、生活のほとんどを音楽が占めている日常を振り返る時、もしあの時電話をせずにいたら、自分の人生は全く違ったものになっていただろうと恐ろしい思いがします。私はピアノを自分の成長の物差しにしてこれまでやってきました。本来、人間は誰しも向上心を持っていると思います。そしてその向上心を発揮するすべがあるのは、何より幸せな事です。私にはピアノがあり、これほどの幸せはありません。
折り返し地点はとうに過ぎました。どこまで続けられるかわかりませんが、これからも誠実に、自分のピアノに向き合っていきます。